養子縁組里親として3歳の男の子を預かるご夫婦の食卓にお邪魔し、子どもを迎え入れるまでの話、実際の暮らしの様子をうかがいました。
いわゆる「里親(養育家庭)」とは少しだけ異なる、「養子縁組里親」という制度をご存じだろうか?
さまざまな里親家庭の食卓にお邪魔し、家族の様子をうかがう連載企画、「家族の食卓」。
今回は、養子縁組里親として3歳の男の子を預かっている穂村彰さん、彩さん夫妻(いずれも仮名)の食卓にお邪魔し、養子縁組里親を選んだ理由、子どもを迎え入れるまでのお話をうかがった。
結婚当時から考えていたこと
取材が開始した途端、「ヒロちゃんここー!」と無邪気な声をあげながら、小さな男の子が彰さんの膝上に乗っかってくる。穂村夫妻が数カ月前から「養子縁組里親」として預かっている男の子、ヒロちゃん(仮名)だ。

養子縁組里親とは、子どもに保護者がいない場合や、実親が親権を放棄する意思が明確な場合などに、特別養子縁組を前提として子どもを預かる里親のこと。
いわゆる「里親(養育家庭)」との大きな違いは、特別養子縁組が成立した場合、里親としての一時的な養育関係ではなく、法的にも実親子関係として認められる点にある。
| 養育家庭(里親) | 養子縁組里親 | |
|---|---|---|
| 子どもの年齢 | 原則0〜18歳まで | 原則15歳未満 |
| 子どもとの関係 | 児童相談所からの委託による養育関係 | 特別養子縁組の成立後、実親子と同じ関係 |
| 関係の解消 | 家庭復帰や、18歳での自立等による措置解除で解消 | 縁組成立後は、原則として不可 |
最初に子どもを迎えることを提案したのは彩さん。なぜ養育家庭(里親)ではなく、養子縁組里親を選んだのだろうか。
養子縁組里親のほうが、里親と比べると委託を受けるのが難しいことは知っていたんです。でも、この人(彰さん)が「いつか里親期間が終わって子どもが帰っちゃうのはさみしい」というので、養子縁組里親を選びました
児童福祉に関するドキュメンタリー番組などを好んで観る母親のもとで育ち、もともと子どもの問題に関心が高かったという彩さん。社会人になった頃からは、個人的に里親支援団体などへの寄付活動も行っていたという。

そんな彩さんが里親になることを検討したことは、自然な流れだったのかもしれない。10年ほど前、彰さんと結婚した当時から、「もし子どもができなかったら、養子や里子を迎えることを考えている」とハッキリ伝えていたと続ける。
自分が子どもを授かりにくいのは知っていたんです。だから「社会貢献」というわけではないですが、「もし35歳くらいになっても子どもができなかったら、実家庭で育つことのできない子どもを迎え入れたい」と結婚当時から話していました
知識もあり、終始冷静な彩さん。しかし、そんな彩さんでも、いざ里親登録をするために児童相談所へ電話問い合わせをした瞬間は、非常に緊張したという。
「もともと、彼女は電話自体が苦手なんですよ」と、からかい気味に説明してくれる彰さん。登録にあたり、彩さんのように「電話での問い合わせにハードルを感じた」と語る里親さんは少なくない。しかし当時は、問い合わせ窓口が電話しか用意されていなかったのだ。

今はネットからも問い合わせできるようになったことを伝えると、「それは本当に良かった」と笑顔で顔を見合わせる2人。その様子からは、2人が当事者としてのみならず、子どもたちや「里親制度」に対して、真剣に思いを巡らせてきたことが伝わってくる気がした。
「またすぐ来るから! 明日来るから!」
苦手な電話を乗り越えて完了した里親登録から、待つこと約1年。ついに児童相談所から「(穂村夫妻が里親の)候補になりましたよ」という連絡が入る。そうして面会することになったのが、いま一緒に暮らしているヒロちゃんだ。

「はじめてヒロちゃんと対面したときの印象はいかがでしたか?」という筆者の質問に、彰さんは「1回目よりも2回目の面会のほうが印象に残っている」と答える。
1回目は簡単な顔合わせだけだったんですが、2回目の時は90分くらい一緒に遊んだんです。で、遊び終わって「じゃあね」と帰ろうとしたら、(ヒロちゃんに)ガン泣きをされてしまって……(苦笑)
1回目の面会のときは、何が起こっているのかわかっていなかったヒロちゃんも、2回目には穂村夫妻に愛着がわいたのかもしれない。ビービーと泣き叫ぶヒロちゃんを前にして、「大丈夫だよ! またすぐ来るから! 明日来るから!」と、大慌てする穂村夫妻。
そこから2人はヒロちゃんに会うため、お互いの仕事の合間を縫って、週4回ペースで乳児院(※実家庭で生活することのできない乳幼児が入所する児童福祉施設)へ通うようになる。

順調に進んでいくヒロちゃんとの交流。しかしここで、とある事情から、しばらく面会のできない期間が発生する。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、乳児院を訪問できなくなってしまったのだ。
(ヒロちゃんはまだ小さいので)今何が起こっているのか理解できていないだろうから、「私たちが急に来なくなってしまったことを、どう思っているのだろう」と、ものすごく心配でした
自分たちがヒロちゃんに会いたいという気持ち以上に、「ヒロちゃんの思いが気がかりだった」と語る穂村夫妻。

会えない期間に積もる不安。そして穂村夫妻は思い切った行動に出る。オンラインで面会を実施するために、自費でタブレット端末を購入し、ヒロちゃんのいる乳児院へ寄贈したのだ。
担当者さんに「端末と回線が準備出来たらオンライン面会は可能ですか」と聞いてみたら、検討すると言っていただけたので、「それなら!」と思ったんです。私たちのほかにも同じような状況の方がいらっしゃるだろうと思ったので、皆が公平に使えるように、職員さんと運用ルールを検討したうえで寄贈しました
そして面会中断から約2カ月後、ついに寄贈したタブレットを使用したオンライン面会が実現する。
嬉しさのあまり「わー! 動いてる動いてる!」と大はしゃぎして、乳児院の職員さんに少し苦笑いされたと語る穂村夫妻。しかしそれも、ヒロちゃんに会うために重ねた努力があったからこそ。
これから3人が家族として暮らしていくなかで、きっとこのエピソードは、いつまでも忘れられない嬉しい思い出として語られ続けるのだろう。
パパの作ったポトフが大好き
こうした苦労を経て、やっと迎え入れることができたヒロちゃん。お互いの仕事の調整に苦労しながらも、愛情をめいっぱい注ぎながら育てている。
特にこだわっているのが、食事。はじめて面会した頃と比べて大きくなったとはいっても、ヒロちゃんはまだ3歳。食べられる物は、まだまだ限られてくる。そこで穂村夫妻が頻繁に作っているのが、野菜をたっぷり使ったポトフだ。
やっぱり普段は、野菜を残しちゃうことが多いんですよ。でも、ポトフに入っている野菜は美味しそうに食べてくれるんです
穂村家では、料理は彰さんの担当。「形の見える状態の野菜は食べてくれないんですよ」と、パプリカやピーマン、カブなどの野菜を丁寧に細かく刻む。

独身時代から、料理を頻繁にしていたという彰さん。「本当は、(野菜を細かく刻むのは)主義に反するんですけどね」とつぶやきながら野菜を刻む様子からは、ヒロちゃんに栄養ある食事を食べてもらいたいという親心が伝わってくる。
一方、お父さんとお母さんがヒロちゃんに野菜を食べさせるための作戦を披露している最中、当のヒロちゃんはお気に入りの乗り物パズルに夢中になっている。

遊び慣れているからなのか、パズルを組み立てるスピードは、大人も目を見張るほどの速度だ。
穂村夫妻によれば、はじめてパズルに挑戦したときは、まったく完成させることができずに泣き叫んでいたというヒロちゃん。しかし諦めず、回数を重ねるごとに完成スピードが早くなっていったというエピソードは、前向きで建設的な穂村夫妻の性格と重なる部分があるかもしれない。

養子縁組里親は一定の養育期間をへた後、子どもを戸籍上の子どもとして迎え入れるために、特別養子適格の確認審判と特別養子縁組成立の審判について、家庭裁判所へ申し立てを行う必要がある。
そこには、これまでとは異なるタイプの困難が伴うことになるだろう。しかし、コロナによる面会中断をも乗り越えた穂村夫妻の前向きさと、ヒロちゃんの笑顔さえあれば、それらの困難も難なく乗り越えていけるはずだ。
この子が来てくれてから、楽しいことばっかりです。しんどいこともありますが、それはどの家庭も一緒じゃないでしょうか。実子も、里子や養子も、子どもをどう迎え入れるかが少し違うだけだと思うんです
そう語る彰さんが作ったポトフを美味しそうに食べるヒロちゃんと、その姿を優しく見守る穂村夫妻。その様子は、まさに幸せな「家族の食卓」の姿そのものであるように感じられた。
取材・執筆 / 大沼楽
撮影 / 鈴木秀康
スタッフより
里親希望者さんのなかでも、特に「特別養子縁組里親」を希望される方は、お子さんに「生みの親は別にいる」と伝えること(真実告知)に、どうしても不安を覚えてしまうことが少なくありません。よろしければ、下記記事もあわせてご覧ください。
