里親として2人の男の子を養育している家族の食卓にお邪魔し、4人が家族、子ども2人が兄弟になるまでのお話をうかがいました。
どうぞお入りください。すみません、当時は2人で暮らしていくつもりで建てた家なので、狭いですが(笑)
そういって筆者たちを迎え入れてくれたのは、世田谷区にお住まいのご夫婦、田中仁さん(仮名)、田中瞳さん(仮名)。
さまざまな里親家庭の食卓にお邪魔し、家族の様子をうかがう連載企画、「家族の食卓」。第2回となる今回は、里親歴16年、2人の子どもを預かる田中夫妻のお宅にうかがった。
「2人目を預かってみる気はありませんか?」
お客様にお茶を出してください。ちゃんとコースターに乗せてね!
「おかまいなく」と告げる筆者をよそに、瞳さんがキビキビと指示を出す。お茶を出してくれたのは、この家で暮らす中学生、裕二くん(仮名)だ。
「はいはい分かりましたよ! あ〜、腰が痛いなぁ〜」と、少しふざけた口調で文句をいいながら、しぶしぶ応対する裕二くん。慣れない取材に、少し落ち着かない様子だ。
中学生らしいダラダラとした態度に、「すみません、上の子の方は結構手伝ってくれるんですけどね(苦笑)」と、仁さんがすかさずフォローに入る。
田中夫妻は裕二くんの他に、もう1人お子さんを預かっている。高校生の浩一くん(仮名)だ。今日はアルバイトに出かけており留守にしているが、田中家の里親生活は浩一くんを迎え入れたところからはじまっている。
田中夫妻が里親登録を行ったのは16年前。2人が40歳を過ぎた頃だ。

最初に「里親になりたい」と提案したのは瞳さん。仁さんも以前、児童養護施設でボランティアをしていた経験から、迷わず賛同したという。浩一くんを迎え入れることになった当時のことを思い起こしながら、仁さんが語る。
里親登録が完了して、その日のうちに早速「子どもと会ってみませんか?」とお話があったんです。しばらく待つと聞いていたので、おどろきましたよ
迎えいれた当時、浩一くんは3歳。その後、子育ては順調に進み、浩一くんが小学校に進学した頃、児童相談所から「2人目を預かってみる気はありませんか?」と連絡が入る。そうしてやって来たのが、先程お茶を出してくれた裕二くんだ。
「じゃあ、さっそく夕飯を作りますか。ほら、ゆう(裕二くんのこと)も手伝って」と、仁さんが準備を始める。共働きの田中家では、調理は当番制。今日は仁さんが担当する日だ。

お父さんに呼ばれた裕二くんが、筆者に「てかさ、この子可愛くない!?」と、タブレットに映したアイドルの画像を見せつけてくる。独特のマイペースさは、末っ子らしいといえるかもしれない。
「僕と裕二、どっちが大事なの?」
今晩のメニューは、餃子とハンバーグ、そして味付け卵。餃子が裕二くん、ハンバーグと味付け卵が浩一くんのリクエストだ。
お兄ちゃんは野菜がキライなんだよ! だからハンバーグ。でも俺は何でも食べれる! っていうか、肉より野菜の方が好きだから餃子にした!
取材中、お父さんの発言を遮っては、絶え間なくお兄ちゃんや家族にまつわる面白エピソードを話してくれる裕二くん。餃子が野菜料理かどうかはさておき、2人が兄弟として仲良く暮らしていることがうかがえる。

しかしそんな2人も、はじめから関係が良好だったわけではない。裕二くんがやってきたばかりの頃は、子どもたち2人の間で小さないざこざが絶えなかったという。理由は、浩一くんの戸惑いだ。
「弟がほしい」という浩一くんの言葉にも後押しされて始まった4人家族の生活。しかし実のところ、家族が増えるのは浩一くんにとって初めて経験。ふとしたきっかけで不安を覚え、ちょっとした揉めごとに発展することが少なくなかったのだ。
浩一にとっては、親の愛情が半分になったようで寂しかったんでしょう。裕二が来てから何年かの間は、毎日のように「僕と裕二、どっちが大事なの?」って質問をされ続けました(笑)
そう尋ねられるたびに「浩一が大事。裕二が大事。2人とも大事」と答えていたと母、瞳さん。「裕二の誕生日ケーキのローソクを浩一が吹き消しちゃって、大騒ぎになったことがあったよね」と、仁さんも懐かしげに語る。

2人の子どもを預かり、兄弟として育てる。子どもたちの関係づくりに、不安はなかったのだろうか?
筆者の質問に、仁さんは「もちろん当時はそれなりに悩みました。でも兄弟って、どこの家庭でもそんなものかもしれないな、とも思うんです」と答える。たしかに、ちょっとした喧嘩やいざこざは、兄弟につきものかもしれない。

ともに生活を送る中で、ときにぶつかり、すれ違いながら、家族における自分の立ち位置を確認し、関係をより確かなものにしていく。
「俺が餃子包むと、お兄ちゃんに『包み方が汚い』って言われるんだよな〜」と文句をいいながら一生懸命餃子を包む裕二くんからは、兄に対する確かな信頼が感じられる気がした。
子どもが安心して「疲れた」といえる場所
そうしてお話をうかがっているうちに、餃子が焼き上がる。フライパンをひっくり返し、きれいな形を維持したまま餃子を皿に盛り付ける様子からは、仁さんが普段から料理にこだわってきたことが伝わってくる。

続けて、お兄ちゃんリクエストのハンバーグと卵も完成。
夫婦で分担しているとはいえ、食べざかりの男の子たちのリクエストに毎回応えるのは大変。それでも頑張れるのは、やはり子育てにやりがいを感じているからだろう。

子育てについて、瞳さんは「実際に子どもたちと生活をするなかでイメージが変わっていった」と語る。
はじめは、わたしたち夫婦の考える「子どもたちの幸せ」を実現してあげようとしていたように思います。でも、実際に子育てをしていくうちに、大切なのは「この子たちは何を求めているのか。そのことに気づき、応えていくこと」なんだと、ようやく実感を伴ってわかるようになったんです
そんな瞳さんの今の一番の喜びは、部屋でダラダラする2人の息子を眺めることだ。
22時過ぎ頃になると、浩一が「疲れたー」って言いながら、お腹を空かせてバイトから帰ってくるんです。そのまま、お行儀のわるい姿勢でご飯食べている姿をみると、「(この家に)安心してくれているんだな」って感じます(笑)。その横で、裕二がダラダラとテレビを見たり、本を読んだりしている。そんな2人の様子を見ていると、浩一と裕二が我が家にきてくれて、本当によかったなと思うんです

今晩も、お兄ちゃんはお腹を空かせてバイトから帰ってくるのだろう。弟の包んだ餃子の形に注文をつけながら、だらしない姿勢で食事する浩一くんと、その横でダラダラとスマホを片手にくつろぐ裕二くんの様子が目に浮かぶ。
ともに暮らしている以上、これからも2人がぶつかったり、すれ違ったりすることがあるだろう。しかし、田中夫妻がこうして「安心できる場所」を用意し続ける限り、それらは何回でも乗り越えることができるに違いない。「家族の食卓」は、きっとそのためにあるのだ。
取材・執筆 / 大沼楽
撮影 / 鈴木秀康
